前回(熱が出るしくみとその役割)では、
熱は免疫を高めるための身体の反応であることなどをご説明しました。
熱が出ると「解熱薬」や「熱冷まし」と呼ばれる薬を処方されることがあると思います。
ですが、考えてみるとこれはちょっと不思議です。
発熱によって免疫が高まるのであれば、
熱がある方がより早く病気が治ることになり、
熱を下げる必要は特になさそうですが、
なぜ解熱薬のような薬があるのでしょう。
解熱薬の役割や使い方を考えるときには、
熱が出ることによるメリットとデメリットについて考える必要があります。
発熱には、身体が病原体と戦う力を高めるというメリットと同時に
デメリットも存在します。
発熱の最大のデメリットは、「消耗してしまう」ということです。
病原体と戦うということは、戦闘態勢になるということであり、
身体にとっては非常事態といえます。
血流を多くするために心臓はドキドキし、
呼吸はハアハアと早くなります。
リラックスして食事を楽しんでいる場合ではないため
食欲もなくなります。
眠りも浅くなり、ちょっとしたことですぐに目が覚めるようになります。
しかし、こうしたことはあくまでも非常事態だからこそできることです。
戦闘状態がいつまでも続くと、身体はやがて消耗し、疲れきってしまいます。
この消耗をおさえるのが、解熱薬の役割です。
解熱薬は、身体の「熱を上げよう」とする反応をブロックするので、
結果として熱が少しだけ下がります。
解熱薬を使うことで体温が平熱まで下がることはあまりありませんが、
熱が少し下がるだけで、自覚的にはだいぶ楽になることが多いものです。
この楽になったタイミングを利用して、食事や睡眠をとることで、
体力の消耗を最小限に抑えることができるというわけです。
「体温が38.5℃を超えたら解熱薬を使わなければいけませんか?」
というご質問をときどき頂きますが、
体温が高いからといって
必ずしもすぐに解熱薬を使わなければならないわけではありません。
解熱薬の目的は、熱を下げること「そのもの」にあるわけではなく、
熱が少し下がることによって「身体が楽になる」ことにあるからです。
「38.5℃以上であってはならない」
「なんとしてもすぐに平熱に戻さなければならない」
と考えて解熱薬を使おうとすると、
常に体温をチェックしていなければならなくなりますし、
解熱薬の使用量も果てしなく多くなってしまいます。
そもそも解熱薬のみで体温が平熱になることはほとんどなく、
熱が下がったとしても0.5℃から1℃程度です。
しかも、解熱薬の効果は数時間で切れてくることがほとんどです。
熱が下がることと病気が治ることは完全にイコールではなく、
解熱薬を使うことで病気が治るわけではありませんので、
解熱薬の効果が切れれば、体温はまた元通りに上がってきます。
(病気が治ってくれば下がります。)
また、解熱薬で熱が下がらないということと、
重篤な病気であることとは必ずしも一致しませんので、
「解熱薬を使ったのに熱が少ししか下がらず、
また上がってきてしまった。どうしよう!」
と思う必要はありません。
「熱があるから解熱薬を使う」のではなく、
「辛そうだから解熱薬で楽にしてあげる」ことを
重視した方がよいと思います。
つまり、解熱薬を使う基準を「体温」に置くのではなく、
「辛そうかどうか」に置くべきなのです。
熱が高い割にはケロっとしていたり、
食事や睡眠がまずまずとれている状況であれば、
解熱薬を使って一時的に熱が少し下がることにより
得られるメリットはほぼありません。
(看病している側はちょっとだけほっとします…)
こういう場合には、解熱薬を使用せずに
そのまま休んでもらうということも
選択肢としては大いにありといえます。
反対に、熱はさほど高くないけれど、
なんだかすごくだるそうで食欲もなく、眠りも浅い…
という状況であれば、
解熱薬を使ってあげた方がいいかもしれません。
解熱薬に分類される薬にはいくつかの種類があります。
その中には、特定の病気にかかっているときには使わない方がいいものや
特定の薬と一緒に飲んではいけないものもあります。
お子さんによく処方される
「アセトアミノフェン」(商品名は「カロナール」や「アンヒバ」など)
は、ほとんどのケースで安全に使えると思いますが、
その他の解熱薬については注意が必要です。
以前処方され、たまたま余っていた手持ちの薬や、
ご兄弟・ご家族用に処方された解熱薬を
何でもいいからひとまず使ってみる、というのは
非常にリスクが高いことですので、避けてください。
医療機関では、症状や診断・体重などに合わせて
薬の種類や量を考えた上で処方をしています。
やむを得ず手持ちの薬を使う際には、
必ず医療機関にご相談されることを強くお勧めします。