発熱によって身体の免疫活性が高まり、
病原体を排除しやすくなることは以前お話ししました。
それでは、解熱薬を使って熱を下げてしまうと、
病原体を排除する力も落ちてしまい、
結果として病気が治るのが遅くなってしまうのではないか、
という意見があります。
確かに、熱が果たす役割から考えると、理屈としては通っている考え方ですね。
しかしがら、これについては今のところ
「人間ではよく分かっていません」
とお答えするのが妥当かと思います。
実験レベルでは、解熱薬を使ったほうが
免疫を担当する細胞の動きがにぶくなったりすることは
確認されているようです。
ですが、人間を対象として、実際に風邪をひいた方を
「解熱薬を使ったグループ」と「使わなかったグループ」に分けて、
病気の治り方に違いが出るかどうか、といった研究は(私の知る限り)ありませんので、
現時点では「解熱薬を使ったほうがいい」「使わない方がいい」とは一概には言えないと思います。
診療を行なってきた中での個人的な印象としては、
たとえ解熱薬を使用したことで治るのが遅くなっていたとしても、
それが1日〜2日という単位で変わっているのかというと
そこまでではないんじゃないかな、というのが実際です。
余談ですが、何をもって「治った」というのかはまた難しい問題ではあります…
熱が平熱まで戻ったときなのか、いつも通りの生活が送れるようになったときなのか、
いくら調べてもウイルスが1個も見つからなくなったときなのか…
(そんな技術があれば、ですが)
結局のところ、解熱薬を使っても使わなくても
病気の経過にはそれほど大きな影響は及ぼさないのではないか、
影響があったとしてもそれほど大きなインパクトはないのでは、と考えています。
病気になっているご本人がとても辛そうにしているのに、
「早く治すためだから我慢して!頑張って!」というのは
ちょっとかわいそうだなという時もありますよね…
それよりも少しでも楽な状態をつくってあげた上で、
病気を乗り切るまでゆっくり休んでもらう、という考え方も
場合によっては必要ではないかと思います。
そういった観点も持ちながら
解熱薬を使う・使わないについて
考えていただければよろしいかと思います。